原発震災
明石昇二郎 編      


        


東海地震で原発被災地想定シミュレーションを本に
「サンデー毎日」に連載 市民団体の要望で

 東海地震で浜岡原発が被災したことを想定したシミュレーション特集「原発震災」(明石昇二郎編)が、七つ森書館から出版された。ルポライターの明石さんが今年2月、「サンデー毎日」で4回にわたり連載したもので、市民グループの強い要望でブックレットによる出版が実現した。

 明石さんの想定は、今年2月29日午後5時30分、マグニチュード8級の「東海巨大地震」が発生。稼働中の浜岡原発2―4号機が大事故を起こし、大量の放射能が大気中に漏れ、静岡県内の2万人以上が急性障害で死亡。首都圏を含めて600万人がガンで死亡するというもの。京大原子炉実験所の故・瀬尾健助手の論文「原発事故災害予想プログラム」をもとに取材・執筆している。また原発や核燃施設を抱える10人が現地報告を加筆している。

 出版に尽力した「PKO法『雑則』を広める会」の小田美智子さんは「著者と出版社、市民が一体となってつくりあげた。原発を大地震が襲ったらどうなるのか、ということを全国の人に知ってもらいたい。」と話した。問い合わせは七つ森書館(03-3818-9311)まで。税別400円。  【中村牧生】

『毎日新聞』 静岡県版 2001年7月19日より


 東海地方に大きな地震が発生する可能性が高いという気象庁の正式発表があってから10年以上が経過した。その間観測網は強化され地震対策もおこなわれてきている。10年以上もなかったのだから……という声もちらほらきこえるがそれは甘い。地球の地殻変動などのスケールでは、10年間はほんの瞬時でしかない。昨年(2001年)の2月、気象庁は想定震源域を大幅に見直し、従来よりも西側にずれた静岡県中西部全域を含む内陸部を新しく震源域に指定した。
 中部電力の浜岡原子力発電所は、従来の想定震源域にも含まれていたが、新しい震源域では、北東から南西にむけて歯反るライン上にある、まさに巨大地震の震源域に立つ原発である。もちろん原発当局は強固な岩盤のうえに建てたのだから、巨大地震に耐えられると主張するがそれが、お題目にすぎないことは、彼ら自身も承知していることで、付近住民の大地震発生による原発事故─波及区的な原発震災への不安は、ますます高まっている。

 明石昇二郎さんのこの本は、いったい、東海震源域を震源とする大地震が起こったとき、それが引き金になって同時に浜岡原発が大事故を引き起こしたらどうなるのか、を具体的にシミュレーションしたものである。シミュレーションは、京大原子炉実験所の故瀬尾健氏がつくった「原発事故災害予想プログラム」の計算コードを使い、同実験所の小出裕章氏の協力のもとに最新の人口データを用いておこなっている。事故の想定は、実際には存在しない2001年2月29日の午後5時30分に大地震が発生し、そのときの大気の安定度を雲の多いうっとうしい空模様の「D」型、風速は秒速4メートルとし、事故のタイプは、米国原子力規制委員会の『原子炉安全性研究』(1974年に発表、ラスムッセン報告として知られている)でとりあげられている「沸騰水型原子炉で炉心冷却系の故障が発生して原子炉圧力容器の底に炉心の半分溶融落下して蒸気爆発をおこし、それが格納容器をつき破って環境中に出て、大量の放射能がとび散る」というBWRIを想定している。いってみれば考えられる最悪の事故の想定である。
 ところで浜岡原発には1号機から4号機まで4基が設置されておりその稼働状況のちがいによっても差がでてくるが、ここでの主要なシミュレーションでは、2〜4号機が稼働していた場合を中心に考察をすすめている。
 このような破局的な事故がおこれば、当然大量の放射性降下物による被害が発生する。6シーベルトで90%、4シーベルトで5割の確率で急性障害による死者が発生すると考えられるが、本書の図によると地元の浜岡では99%、磐田市で90%、豊田町で50%、浜松市で5%の急性死亡者がみこまれるとされている(それぞれの都市の人口に対しする値)。
 原発震災ではこの数字に地震による建物の倒壊や津波、火災などによる死者が加わることになる。本書ではいろいろなケースについて詳しい想定ガン死者数を算出しているが、詳細は本書をみていただきたい。
 この本のもうひとつの特長は、このような事態がおこったとき、静岡の地元はもとより、日本国全体がどのような対応を示すだろうかを、このシミュレーションをもとに想像力を働かして、ノンフィクションとして描いていることである。著者はこれを「シミュレーション・ノンフィクション」と名付けている。
 この記事を最初に連載した『サンデー毎日』の瀧野編集次長はこれについてつぎのように書いている。
 “だいたい「シミュレート」してしまったら、ノンフィクションではなくなってしまうだろうが、と普通に考えるとそうなるだろう。ところが彼は言った、「原発と巨大地震のふたつを併せて考える場合は、コレありなんです」。─中略─ この取り組み、想定部分がウソっぽくても、ノンフィクション部分の記述に説得力がなくても、失敗する。─中略─ しかし彼はやり遂げた。緻密に調べ上げ、きちんとていねいに書いた。できたものをみていただければ、国や電力が後生大事にしている「想定」がいかに薄っぺらなウソが、よく分かる”と。
 この記事が掲載された『サンデー毎日』は浜岡現地の書店では飛ぶように売れ、追加注文に追われたと本書巻末の「各地の原発現地から」は書いている。原発各地からは、浜岡をはじめ泊原発、六ヶ所村・核燃サイクル施設、福島原発、能登原発、島根原発、伊方原発、川内原発からの現地報告がのっている。

 「原発現地から」に続いて、京大原子炉実験所の小出裕章氏の「災害評価シミュレーション』という記事と「その後の議論・論争」として小出氏と日本海洋科学振興財団の更田豊次郎氏の論争がのっている。更田氏の批判は、とりあげている想定が過大で不安を煽る、という論旨でシミュレーションそのものを否定しているのだから、かみ合った話になりえない。それにしても苛酷事故に目をつぶる推進派の人たちの脳天気さをよく示していて参考になる。

『技術と人間』2002.4月より 評者・編集部