書評 

310人の性意識

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特別ではない「彼女たち」を淡々とつづった一冊
 最相葉月(ノンフィクション・ライター)

 女性同士のカップルの中にも、子どもがほしいと感じたことがある人がいるはず……生殖補助医療技術、一般に不妊治療といわれる先端医療についての取材を進めながら、そんなふうに思っていた私は、偶然入った書店でこの本を見つけた。レズビアンやバイセクシュアルなどさまざまな性指向を持つ非異性愛の女性310人に行われたアンケートと個人インタビューがまとめられた日本で初めての画期的な調査報告書である。
 まず、女性器を思わせるシンプルなデザインが施された薄いピンク色の装丁がいい。集計されたグラフと回答だけを淡々と紹介し、編集部が余計な注釈を加えず、抑制気味に一言だけコメントするスタイルにも好感を持った。回答者の職業は会社員や公務員、カウンセラー、編集者、大学の先生などで、特にヘテロ(異性愛者)と違う世界に生きているわけではない。恋愛や結婚、セックスなどについて一人一人が語る胸の内も、三角関係の悩みや浮気、家族の問題で、そのコメントだけ追っていると、普通の女性誌の読者欄とさして変わりがないように思える。
 だが、絶対に同じではないのは、彼女たちが圧倒的なマイノリティであり、出会う場所や相手と抱き合うことひとつとっても、ヘテロからは想像することができない苦労を抱えていることだ。ラブホテルに泊まるのを断られるのは日常茶飯事。相手の部屋に出入りすることさえ近所に気を使う。婦人科での医者とのやりとりもそう。たとえば子宮筋腫で病院に出かけた人の体験。男性経験の有無を聞かれたり、「子どもを産めば治るわよ」「いい人は見つかった?」などという言葉をかけられるのはヘテロにとっても無神経に響くが、彼女たちはもっと違うニュアンスで傷つく。
 世の中の常識も、少し角度を変えた視点から眺めれば、ちっとも常識ではない。常識っていったい誰を基準にしていたんだろうと思いたくなる。ヘテロに対するイメージは? という問いに答えた、ある会社員の「感受性の乏しい人々」という回答は一番ショッキングだった。
 子どもについては、欲しいと答えた人は約2割。養子や精子バンクを利用した人工授精、なかには二人の遺伝子を利用してできる方法があればという切実な回答もあった。日本では結婚はもちろん、子どもを持つことも法的に認められていない。だが、1998年は日本で初めて非配偶者間体外受精や性転換手術が行われた生殖医療の大転換期だった。問題は山積みだけれど、少しずつ何かが動き始めているような、そんな気がする。
 ありのままの自分を認めることができる人が一人でも増えるように、そして、自分とは違う人の生き方に思いをはせることができる人が一人でも増えるように……彼女たちの声に触れながら、そう思わずにはいられなかった。社会を変えていけるのは、結局、想像力しかないのだから。

さいしょう はづき●前書『絶対音感』(小学館)で第4回21世紀国際ノンフィクション大賞を受賞。ユニークな観点と緻密な構成力でベストセラーに。現在は次なるテーマ「バイオテクノロジー」について取材の毎日。

『ヴァンサンカン』1999年1月号No.232 『BOOK FEATURE』欄から

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