狂牛病を追う
「酪農王国」北海道から
滝川康治 著


     


●著者インタビュー

 牛海綿状脳症(BSE)の牛が、国内で初めて発見されてから1年。これまでに国内で5頭の感染が確認されたが、このうち3頭は、北海道と何らかの関係がある牛だ。畜産農家はいまだに「次はうちの牛かもしれない」という不安を抱え、営農を続けている。
 なぜ、こうしたことが起きたのか――。著者自身、北海道下川町で酪農を営んでいたこともあり、農家のプライドが取材へと駆り立てた。稚内市、猿払町、佐呂間町、湧別町、中標津町、新得町、別海町……。酪農が盛んな地域を中心に、昨年12月から今年3月まで取材を続けた。 
 「物心ついた時から家には牛がいた。父親の跡を継いで牛飼いをやっていたこともあり、農家の気持ちは人一倍よく分かる。まずは農家に読んでもらいたい」
 得に目を引くのが、死亡牛の処理場の実情だ。BSE検査から逃れようと、「骨折したとか、見た感じ病気ではない牛が死亡牛として持ち込まれている」ことを目の当たりにした。中には元気がよくてどうにもならない牛が生きたまま持ち込まれ、「頭をたたいて殺すのは、ゆるくない(楽じゃない)」という処理場従業員のぼやきものせた。死亡牛処理の現場をつぶさに取材できたのは、酪農家出身という強みがあったからだ。
 「死亡牛検査をきちっとしない限り、汚染の広がりはつかめない。世界で一番厳しいという食用肉の全頭検査の陰には、さまざまな抜け道と行政の貧困が横たわっている」と指摘する。
 BSEを引き起こした責任についても触れた。「農家は何も悪くない。被害者だ」と言い切る現場の農家に対して、本当にそうだろうかと、疑問を投げかけている。
 「BSEの責任の重さは、逆三角形の形をしていると思う。責任が一番重いのは農水省などの行政、次に重いのが飼料メーカーやJA、最後は農家。効率を優先してきた農家にも責任はある」
 本を通じて言いたかったのは「肉骨粉さえ使わなければいいという問題ではない。効率に走る酪農の生産構造を転換していく必要がある」ということ。そのためには、牧草を主体とした酪農への回帰や、有機畜産の推進を提案する。
 「今の構造が続く限り、新たな問題がまた発生する可能性はある。国は、キツネしか通らないような道路に金をつぎ込むより、安全・安心な食料生産にもっと金を使うべきではないか」

『日本農業新聞』 2002年9月23日(月) より


 酪農王国北海道に在住するルポライターが、元畜産家という立場から牛海綿状脳症(BSE)騒動の検証をした『狂牛病を追う──「酪農王国」北海道から』が(株)七つ森書館から発行された。
 未だBSE感染のルートが明らかになっていないなか、行政はもとより、工業的な生産を押し進めてきたこれまでの畜産に問題提起し、実際の酪農家から生の声を引き出し、北海道という日本随一の酪農地域での現状を明らかにしている。例えば北海道といえば、のどかな酪農風景、放牧された牛が草を食むといったイメージを浮かべる人は少なくない。しかし、実際はオートメーション化が進み、疫病予防や搾乳、管理のため、放牧もまれだ。今一度、生産構造を見直し、放牧主体、EU型農政への転換を進めることに日本の酪農の将来はかかっていると述べる。A5判、200ページ、本体1300円。(税別)

『畜産コンサルタント』 No.457 2003年1月号 より


北海道の酪農現場から、農業政策を問う告発の書。

 英国で狂牛病騒動が起きたとき以来、「日本ではその心配はない」と行政や学者、農業指導機関が言いつづけて来た中で2001年9月に1頭目の患畜が発生し、現在まで4頭の発生を数えている。連日の映像報道に人々はくぎづけになり、「恐ろしい」「牛は食べない」というイメージをうえつけさせた。
 その中で、北海道在住のルポライター・滝川康治さんが、告発の書を書いた。過去に牛飼いの経験をもつ彼は、狂牛病発生の原因は本来、草食動物である牛に、人間が肉骨粉を与え、共食いを強いた結果だという。
 肥えた土で育てた牧草を腹いっぱい食べさせ、十分に運動をさせた健康な牛で、年間の搾乳量は4000キログラムと言われている。ところが、多頭飼育と乳量を上げるため、輸入穀物で作った配合飼料を食べさせ、狭い空間につなぎ、運動をさせないで牛のエネルギーも体も搾り切るという酪農に北海道は変わっていった。現在、1頭平均で約7400キログラムの搾乳量を記録している。
 その果てに、タンパク質養分の高い動物の骨や臓器によって作られた肉骨粉を投与し、乳量を高めようということになったのだ。  
 滝川さんは言う。過度な搾乳で牛の寿命を縮め、不健康な牛をふやし、糞尿処理をはじめ戻しようのない劣化した環境のもとで、狂牛病は起こるべくして起こったのだと……。
 私がこの本をぜひ読んでほしいと言うには、ためらいがあった。それは生産現場で当たり前に使われている言葉で、一般の読者にわかってもらえるかという不安があったからだ。しかし、平易になって正確さがなくなればと思うと、このままの本書をそのまま読み解いてほしいと考えた。「原点に戻り、農業政策の転換を」、この一言に滝川さんの考えが最も表れている。また、「安全でよい食べ物を」という農業者の人々の生の声、意気込みを伝えている。表紙を含め、写真は現場の雰囲気を的確にとらえていると感じた。 

『通販生活』2003年春号 より


 

 昨年以来、この種の本が多く出版されたが、本書は生産現場密着度では際だっている。著者が酪農家生まれで、子どものころから家業手伝い体験が基礎にあるが、ルポラーターとしての客観性、説得力のある内容である。
 あえて、牛海綿状脳症でなく、狂牛病と表現する理由は「人間の思い上がった風潮が牛を狂わせたこと」への反省から。
 規模拡大を深追いした生産構造のゆがみがある、と生産側にも意識改革をせまっているのも筆者ならではのことだ。
 放牧中心で自給飼料資源を活用、牛の生理にあわせて無理をしない「マイペース酪農」の三友盛行氏の紹介もある。

『全国農業新聞』2002年10月25日 より


 下川町内上名寄在住のルポライター、滝川康治さん(47)が、このほど、七つ森書館(東京)から、『狂牛病を追う〜酪農王国北海道から』を出版した。独自の調査を基に、日本でBSE(牛海綿状脳症)が発生するまでのメカニズム、国の対策の危うさなどを鋭くえぐる内容。


 滝川さんは昭和29年、下川町上名寄生まれ。名寄農高を経て和光大学人文学部中退。地方紙記者、酪農業の後、フリーのルポライターとして活躍。これまでに『幌延・核のゴミ捨て場を拒絶する』(技術と人間)、『核に揺れる北の大地』(七つ森書館)の著書。
 道内にあるへい獣処理場のルポからスタート。本来ここは、病気やけがで死んだ家畜を処理するための施設だが、国内で初めてBSEが確認された昨年9月以来、生きた廃用牛が持ち込まれるようになったという。ここではBSEの簡易検査は行われずに処分。
 「これでは狂牛病の感染状況を把握するデータが蓄積できないまま、リスクの高い牛が、闇に葬られてしまう」と指摘する。

 国の調査でもBSEの感染経路は確認されていないが、感染源とされる肉骨粉を乳牛の飼料に推奨する文章を、当時の飼料情報誌に掲載した農業改良普及員、大学の研究者らにインタビューを試みている。率直に責任を認める人、責任逃れに終始する人などいろいろ。
 EU(欧州連合)からの警告を無視した農水省、飼料生産業者の責任とともに、牛に「共食い」をさせ、生産第一主義に走った酪農家の責任も厳しく追及。そのほか、安い商品を求めるだけの消費者など、酪農を取り巻く構造的な環境がBSEを生んだと指摘。 
 北海道酪農が目指すべき方向として、ある酪農家の言葉を引用しながら、「農業は生態系そのもの。酪農は放牧、オーガニック(有機)を中心とした経営(原点)に返るべきだ」と訴える。
 A5判197ページ、1300円(税別)。全国の書店で取り扱っている。滝川さんへの問い合わせは(01655-4-4270)へ。
 

『名寄新聞』 2002年8月1日(木) より