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「魚をまるごと食べたい」
DIYのすすめる本 特別座談会
読んだ! 食べた! 考えた!
『魚をまるごと食べたい』をめぐって
みんなに教えたくなるうれしい本をみつけた…
――魚と海と私たち
頭のてっぺんからしっぽの先まで魚をおいしく食べたい!――そんな気持ちにさせる、とてもうれしい本をみつけました。水産資源研究者で、漁民と共に漁業の在り方を考え続けている水口憲哉さんの『魚をまるごと食べたい』です。私たちはこの本を読んで、魚をおいしく食べながら、魚と海と私たちとのつきあい方について語り合うことを思いつきました。DIY編集協力者で大の魚好きの中西新太郎さん、<本選びの会>食チームメンバー、生活クラブ連合会水産担当の小柳さんが集まって魚談義のはじまりはじまり。皆さんもぜひ、面白くって役に立つこの本を読んで魚と仲良くなってもらえれば…。
堀 水口さんの本は教えられることがいっぱいあって、すごく面白かったです。そのうえ、今日は中西さんに、地元相模湾で今朝獲れた魚を仕入れてきていただき、みんなでさばいて味わいながら、この本について語り合うということでわくわくしますね。
近藤 この本を読んで、私は魚との幸せな出会い方をしていたんだなあと思いました。私は実家が仙台で、小さい頃からおいしい魚を食べていました。たとえば、すごく磯臭い、独特な味がするホヤ。そんな魚の話がいろいろ出てきて感激して読みました。
堀 私は、魚や海のことなんにも知らないなあと思いました。東京の足立区生まれで、結婚してからは埼玉県で海なし県なんです。旬があるって書いてあるんですけど、魚はいつが旬ってそれも知らないなあって(笑い)。秋はサンマがおいしいとか、初ガツオくらいしか。初ガツオはいまが旬ですよね?
中西 最近は前の年のものを混ぜて売っているから、本当に初ガツオかどうかもわからないですね。冷凍技術が発達したために、そういう操作がしやすくなった。地元で獲れる魚は種類はたくさんあるけれど量がそんなに多くない。そうすると市場で扱ってもらえない。大消費地に住んでいると、普通の魚を食べる機会もないということになる。そもそも魚屋さんが、市場で魚を見て買ってくるということ自体が怪しくなっていますから。
堀 この本に世界各地の魚の食べ方のグラフがあります。日本だけがヘンで、獲れた分をほどほどに食べるというのではなく、人並みはずれて輸入し、すごくたくさん食べているんです! 魚の自給率って64%しかないんですってね。
近藤 しかも食べる魚の種類が限られている。エビや高い魚が輸入されるということなんでしょ?
中西 そうです。たとえばマグロは地中海、イスタンブールから商社が運んでなおかつ儲からなければだめ。さらに現地の人の賃金が安いということも条件。そうすると日本の漁師さんが獲るよりも安いということになる。特に値がはる魚は。そんな仕組みがおかしいんじゃないかということが、この本にはやさしく書かれています。
汚染をとらえる“感覚”
中西 魚の本を選ぶ基準というのは、読んでよだれがでそうかどうかということで……(笑い)。書いている人が魚をどう思っているかが伝わってこないと読む気がしないですね。たとえば、科学的に扱うとか、経済の面から扱うにしても、魚に対する対し方みたいなものが出ているかなということが選ぶ基準なんです。この本は文字どおりよだれがでるような本でとても面白かったです。どういうふうにしておいしく食べるかということについても技術の問題だけではなくて、地元の魚をどうやって食べるか、どうやって育てるかということも含めて、つまり自分たちの生活の中で魚とどうつきあっていくかがすごくでていて……。私が食べていなくて悔しいと思う魚もずいぶんありましたよ(笑い)。逆にあっ、これは私の食べている方がおいしいと思うのもありましたけど。こういう本を読むとつい比較してしまうんですよね(笑い)。ところで、イカも好きなんですけど、ここにショックをうけることも書いてありましたね。
近藤 ロシアの核廃棄物の海洋投棄の影響で汚染されている可能性があるというのは驚きました。生活クラブのスルメイカは?
小柳 生活クラブでは消費材の放射能汚染測定をしていますが、スルメイカは昨年七月の検査で不検出(検出限界値五ベクレル/キログラム)でした。
堀 バイ貝も有機スズ化合物で汚染され激減して朱鷺(ルビ:とき)と同じ状態になっているんですって……。
中西 しかも有機スズ化合物は船底塗料として使われているとは。現在日本では、水口さんたちの運動で製造・使用が大幅に規制されているようですが……。
堀 自然に逆らうことをすると必ずしっぺ返しがくるんですね。
近藤 それもそうだけど、私が心痛むのは、日本向け輸出のために、第三世界の環境破壊をしていること。たとえばエビ。でも安く売っているからどうしても買ってしまう。
小柳 それで生活クラブは、環境破壊をせずそこに住む人々の生活も乱さない方法のエコシュリンプを取り組んでいるんですよね。
堀 バイ貝だって、日本で汚染されているから、中国から年間6000トンも輸入しているそうです。「日本のものは汚染されるので中国のものを食べればいい」というような発想が多すぎますよね。この本は、食べる側に立ち、漁師さんたちのことも考えつつ、水口さんの悩みも含めて書いている。たとえば汚染を測ることが生産者にとってどうなのか、食べる側はそれも一緒に考えるというように。だからこそ、読みながら私たちも考えられるような本だと思うんです。
中西 水口さんは前書『海と魚と原子力発電所』で、放射能の危険性に関する“感覚”という大事な指摘をしています。「数値で示してもらわなければ痛さ、怖さがわからないということではダメで、関係性の総体を見て、これはたいへんなことなんだということを知る、その感覚をもう少し都市の人たちは磨く必要があるのではないか」。
漁業の在り方を考えるとき、食べることと獲ることを文化としてどう一環させて結びつけていくかという課題があると思うんです。それがいまズタズタにされようとしている。そのところを、この本は両方からみてくれているんです。
小柳 問題提起型の警告書みたいなものはありますが、こうやっていこうよというところまで書いてある本は意外に少ないですよね。
中西 水口さんは水産資源の調査研究と、原発と漁業の問題に長年取り組み続け、漁民とともに考え実践してきた方です。そういう漁民との生きたつながりが底にあってはじめてできた本だと思います。
食べ方まで決められている魚
堀 私のように、新鮮な魚をあまり食べてこなかった場合、「お刺身用」として魚屋さんで売っているもの以外は生で食べちゃいけないという感覚だった。だから、生活クラブの冷凍魚も、刺身で食べたことは組合員になった当時は一回もなかったんです。料理講習会でスルメイカとかアジもサンマもイワシも刺身で食べていいって言われて、えーっ、ウソーという感じだったんですよ(笑い)。
中西 食べ方のことがでましたが、市販の冷凍食品は煮物にするとグズグズになってしまう。だから水気をとばすためにどうしても揚げ物が増える。それで料理の仕方が変わってしまう。生活のスタイルが変えられてしまうことは大きな問題を孕んでいると思います。
近藤 魚は種類も操作されているし、食べ方までも決められているということなんですね。
中西 刺身が一番おいしいというのはちょっとおかしい。魚に応じた食べ方があっていいんですよね。この本にも一夜干しや漬け焼きなどそれぞれの魚をおいしく食べる料理法がたくさん出てきます。
小柳 マグロ屋さんに聞いたんですけど、埼玉県はマグロの消費量が全国で一番多いんですって。埼玉から内陸の方の海のない県はマグロの消費の比率が高いそうです。活きのいいアジ、サバ、イワシを並べておいてもあまり売れない。
堀 マグロの刺身が一番というイメージがあるのかしら。それと、新鮮な魚に出会っていないということもあるかも……。
中西 それも本当におかしいと思うんですね。イワシは安いから、活きがよくても消費者に届けようという話にはならない。たくさん獲れていて、本当においしい食べ方がたくさんあるのに、それが食べられないっておかしいですよね。流通には反映されてこない。
魚のおいしさを学べる場を
小柳 スーパーのような対話のない魚屋が大部分になっている環境も悪いですよね。僕は水産品を担当していながら、近所に顔馴染みの魚屋があって、うまいもの食いたいときはそこにいくんですよ(笑い)。今日、なんかいいネタない?なんて聞くと、しょうがねえなあとかいって奥から出してきてくれる。生活クラブで100%まかなえるわけではないですからね。
近藤 水口さんが魚とのつきあい方の秘訣として、「お金では買えない人とのつながり」「地域の生活と結びつく形を大切に」「魚の食べ方を選択する」――という三つのことをあげています。これはとても大事なことだと思います。
中西 食べ方がどうなっているのかということと獲り方がどうなっているかをあわせて考えることは、海という自然を人間がどうみるかということと非常に密接に関係していると思うんですよね。
怖いのは、味覚が変わるということ。たとえば魚臭いから嫌だという子どもたちのために、給食のアジフライはアジの臭いを消す加工をする。味覚が変わっちゃうと、需要がないんだからいらないということになって、原子力発電所でも作った方がいいという話にもなりかねない。そういう考え方が正当化されてしまうことは恐ろしい。おいしくもないものをなんで獲らなきゃいけないの?ということになる。そうすると、自分の近くの海を守ろうという気持ちも薄れる。輸入魚も増えてくれば、近海で埋め立てをしたりすることに鈍感になると思う。日本の海で獲らなくたって、これだけ獲れているんだからと。この本はそういう点で重要なことが書かれています。
小柳 消費者が環境破壊を支えているという可能性もあるんですね。
堀 今回、この本をきっかけとして魚や海のことをもっともっと知りたくなりました。
小柳 こんどは一緒に水口さんのお話も伺いたいし、今回のような勉強会もやりたいですね。魚は日本での生産が無理ではないのですから、生産現場のことももっと学びあってこれからの共同購入について考えていきたいと思います。
中西 魚は、毎日の食生活に欠かせないものなのに、私たちはあまり感じずに食べていると思うんです。今日みたいに魚のおいしさを学べる場をつくることも大切です。食生活をもっと豊かにするためにもかけがえのないこの本を、ぜひ生協運動にかかわるみなさんに読んでほしいですね。
中西新太郎:現代日本社会論。横浜市立大学教員。DIY編集協力者。魚を求めて神奈川県三浦半島に住む。
堀 美紀子:<本選びの会>食チーム。埼玉県在住。
近藤眞理子:<本選びの会>食チーム。神奈川県在住。
小柳弘茂:生活クラブ連合会開発部・水産担当職員。千葉県在住。
『DIY』1995年7月号第136号
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