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こころに病をもつ人びとへ
猪俣 好正 著
「安心できるお医者さんというのがいる。高校以来の友人の猪俣君はそういう精神科医である。こころの病を解明しようとする真摯さと、わからないことはわからないとする謙虚さを併せ持つ彼に対する私の信頼感は50年近く変わらない。 |
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第1章 精神医療の現場から 精神医療の現場から 1 精神疾患の頻度は予想以上に高い 2 誰でもいつでもかかりうる疾患である 3 ふたつのエピソード 4 わが国の精神保健医療福祉施策の特徴 5 変わる精神科医療 6 精神の病からみた現代──激増するうつ病 精神医療の歴史的変遷とその背景 1 精神障害観・精神科医療の変化 2 六〇年前 精神衛生法の成立 3 五〇年前 薬物療法の導入と増床政策の展開 4 四〇年前 精神病院不祥事件の頻発と反省 5 三〇年前 地域精神医療の芽生え 6 二〇年前 精神保健法の成立 7 そしてこの一〇年 法理念の整備 8 背景となる考えかた 9 まとめにかえて 「心の病」と「事件」 1 精神障害者の犯罪 2 触法精神障害者の処遇 3 対象者のふりわけ 4 再犯の恐れの認定は可能か 5 重大な犯罪という「重大」の線引き 6 鑑定入院の問題 7 指定入院医療機関の不足 8 問題の多い地域処遇 9 精神科医療の底上げを 第2章 精神保健医療の現在 「精神保健医療福祉の改革ビジョン」を読む 1 国民意識の変革は可能か 2 社会的入院は解消されるか 3 精神病床の削減は可能か 4 機能分化は促進されるか 5 地域医療体制の整備は進むか 6 不十分な患者への情報提供と精神医療の透明性の確保 7 地域生活支援体系の再編 精神保健福祉法改正の歴史的経緯 1 精神病者監護法から精神衛生法まで 2 精神衛生法から精神保健法へ 3 精神保健法から精神保健福祉法へ 4 残された課題 障害者自立支援法の見直しに向けて 1 支援費制度破綻の背景 2 理念をめぐって 3 利用者負担の問題 4 障害程度区分の認定 5 地域生活支援事業 6 事業者指定基準と報酬 7 介護保険とのリンク問題 8 まとめにかえて 第3章 家族の役割と患者さんへの接しかた はじめに 1 不治の病ではない。よくなることを信じよう 2 入院させるだけではよくならない 3 再発をどう理解するか 4 薬を上手に利用しよう 5 すべての働きかけは、本人の気持ちを理解することから始まる 6 怠け者と決め付けない 7 ゆとりを持って接しよう 8 まず《聞くこと》《認めること》《ほめること》 9 相談相手・仲間の大切さ。ヒトは一人では生きていけない 10 患者さんの力を信じよう 11 家族の役割の大きさを再確認しよう 12 親の育てかたが原因か……? 自責的に考えるのは止めよう 13 隠して生きるのはゴメンだ……当事者運動の高まりを 14 患者さんの長所をみつけよう 15 医療スタッフ用補遺 第4章 精神医療に携わるにあたって 社会生活技能訓練(SST)の課題 1 対象と適応の問題 2 般化・維持の問題 3 構造化されたSSTとそうでないSST 4 正のフィードバック 5 評価の問題 6 文化の違いの問題 7 誰がやるのか、研修の問題 8 一人歩きの問題 9 認知障害仮説について 地域医療の一視点 1 善意の押し付け(主体性の剥奪) 2 指導─被指導の関係(ともに生きることの難しさ) 3 治療計画の怠慢さ(専門性の誤解) 4 目的と目標の混同 5 障害(者)観(偏見への呪縛) 6 家族に対する過大な期待と否定的な評価(両価性) 7 相互批判に弱い体質 |
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はじめに 本書は、精神科医として宮城県立精神医療センターに勤務した三八年間、折に触れて一般市民、患者さんや家族、医療スタッフに講演した内容をまとめたものです。 国は、二〇〇四(平成一六)年九月に精神保健福祉対策本部報告書「精神保健福祉の改革ビジョン」を公表し、「入院医療中心から地域生活中心へ」という基本的な方策を推し進め、立ち遅れた精神保健医療福祉体系の再編と基盤強化を一〇年間で進めることを約束しました。そして翌年の一〇月には、障害福祉サービスを安定的かつ効率的に供給することをうたった障害者自立支援法が成立しました。 しかし、精神科医療の一現場からみると、長くその問題点が指摘されてきたにもかかわらず、なお改革の歩みは遅々としており、十分には進んでいないというのが実感です。先進諸国に例を見ない巨大な精神病床と地域精神医療の立ち遅れ、大きな地域間格差、全入院患者のおそよ三〇%にも達するといわれる社会的入院者、低い精神科医療費と貧しい人員配置基準、三障害のなかでも立ち遅れが目立つ福祉施策等々。さらに近年は、競争社会が激化し自己責任という言葉が氾濫する中で、自殺者が三万人を超えるという事態が連続して九年となり、児童思春期のメンタルヘルスの問題も深刻さを増しています。 「先生、なんといってもこの病気はつらいね。周りには気兼ねをしなくてならないし、いつまでたっても苦労はつきないし、今の医学で治せないものかね」 患者さんやご家族から、ためいきとともに重い悩みをお聞きすることがあります。学問・実学としての精神医学の未熟性に無力感を覚えることも稀ではありません。しかし、それ以上に無念の思いをするのは、これほど頻度の高い誰でも罹る可能性のある疾患であるにもかかわらず、精神障害者とその家族をここまで追いつめている構造、身体障害者や知的障害者と比べても二〇年は遅れているといわれる諸施策、そしてそれを許してきた私たち世の中の考え方、精神障害者観です。 とはいうものの、こうした深刻な状況にあって、長い目でみると精神障害者に対する治療や処遇、考え方といったものは確実に変化してきているように思います。それは、今からおよそ三〇年前に起こった小規模作業所を始めとする地域精神保健活動、当事者運動の高まり、二〇年前の精神保健法成立以降の法理念の整備等々に関連して生じてきた改革ということができますが、それは医療関係者だけではない、何よりも患者・家族を中心にした当事者、そしてそれを地域で支える職親やボランティアなど大勢の関係者の果たしてきた努力が大きいといわなければなりません。いいかえるならば、私たちは戦後六〇年にしてようやく出発点に立つことができたのかもしれません。それは決して後戻りの許されない出発点でなければなりません。 本書の元になる講演記録は、もとより出版を意図にしてなされたものではありません。新しい法制度の施行にともなって古くなった事項については修正加筆を行いました。また、医療観察法や障害者自立支援法の課題については、新たな加筆を行っています。まとまりのない講演テーマを整理し、一冊の本にすることを薦めてくださいました七つ森書館のみなさんに感謝申し上げます。 |