各章の要約
序章  東海村臨界事故のあらまし
第1章  東海村臨界事故
―経過と原因に関する考察―
第2章  放射線被曝と健康への影響
第3章  事故原因について
第4章  原子力安全行政の破綻と
安全行政の独立のために
第5章  核燃料サイクル開発機構(旧動燃)の
責任について
第6章  事故に係わる防災上の対応について
第7章  東海村民と那珂町民の被害・不満・不安
 ―住民生活影響調査から―
第8章  原子力産業の現状とJCO臨界事故
第9章  JCO臨界事故における損害賠償
第10章 JCO事故とその対応に見る
   原子力開発体制の問題点

政府への提言
1. 臨界事故の再調査を
民間の第三者機関によっておこなうこと
2. 放射線被曝者に対する
心身のケアについて十分な配慮をすること
3. 原子力施設の安全審査の体制を
全面的に見直すこと
4. 放射線に関わる教育訓練を強化すること
5. 事故の際の防災体制を抜本的に見直すこと
6. 核燃料物質の計量管理を厳格におこなうこと
7. 日本の原子力の現状について
徹底的な見直しをすること

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各章の要約

序章 東海村臨界事故のあらまし
 この章では,事故の時点から現在までの経過について,豊富な資料を駆使して,事故の概要がまとめられている。
 事故の経過,「臨界事故調査委員会」による調査,不適切な作業手順と作業設備,起こった核分裂の回数と時間変化,中性子の敷地外への放出,事故の原因,放射能の生成と周辺への移動,核燃料サイクル開発機構(以下,旧動燃)の発注者責任問題,科学技術庁と原子力安全委員会の責任問題,原子力防災体制の不備,東海村住民生活意識調査の結果等,順を追って説明している。以後の章に含まれなかった事柄にも触れられているので,事故について知るための基礎となる。

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第1章 東海村臨界事故―経過と原因に関する考察
 この章では,事故にいたった作業,放射線と放射能の放出および事故の責任の所在などについて述べている。
 JCOと住友金属鉱山の関係は深く,経営面でも核燃料加工施設としての適格性でもJCOを独立した企業とは認めにくい。経営状況は悪く,人員整理が進み,有能な人材が流出したと思われる。危険な作業が未経験の社員によっておこなわれていたことにはその背景がある。
 事故は,危険な中濃縮ウランを含む溶液を,臨界の起こりやすい「沈殿槽」内で混合したために起きた。このような作業をすれば破局にいたることは分かっているはずなのに作業は強行された。旧動燃からの濃厚溶液製造と均一濃度の溶液の納入の要求が,結果としてステンレスバケツを用いるような作業になった。
 政府の事故調査委員会報告では,起こった核分裂の回数を2.5×1018としたが,この値を求める際の調査は不十分であり,正確な値は得られていない。また,核分裂数の時間変化についての情報は不十分であり,放射線被曝を受けた人の線量評価の際に誤差が大きくなる原因となっている。
 放射能の放出量は大きくはなく,中性子線被曝に比べて人体への影響は小さいはずであるが,身体の異常を訴えた住民がいることを考えると,今後の徹底した検討が必要であろう。

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第2章 放射線被曝と健康への影響
 この章では,主として中性子線の人体への影響に関係する問題について述べている。
 今回の事故の特徴は,JCO関係者だけでなく周辺住民が中性子線によって重大な被曝をしたことである。中性子線被曝の生体影響は大きいが,その被曝線量の評価はきわめて難しい。国による被曝評価では,その評価方法がしばしば変更され,それとともに被曝線量が大きく下方修正された。そのようなやり方が住民の不信を招くようになっている。周辺住民に対する線量評価については,疑問な点,不明な点あるいは明らかな誤りが多く見出されている。
 科技庁は「200ミリシーベルト以下ならば,ガン発生の増加などの健康影響の懸念はない」との見解である。その根拠は国際放射線防護委員会(ICRP)の広報60であるが,これを基にして上記の線量以下ならば影響がないとするのは誤りであろう。
 放射線による影響を十分考慮した徹底した健康診断および適切な医療を受ける権利は国が保証すべきである。

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第3章 事故原因について
 この章では,事故調査委員会における事故原因に関する議論の問題点について述べている。
 事故調査委員会は,投入されたウラン量,沈殿槽への投入の動機などの事故原因の最も基本的な事実関係について,ほとんど解明の努力をせず,証拠の裏付けもなく委員会に提出された資料とも矛盾する認定をしている。
 沈殿槽に投入されたウランの重量は16.6kgとなっているが,裏付けとなる操業記録が事故調査委員会に提出されず,投入したとされる各バッチのウラン量を示した1枚の表が出所不明のまま出されているだけである。しかし,委員会に提出された他の複数の資料は,今回の作業で投入されるべきウラン量は,14.5kgないし15kgであることを示唆している。
 沈殿槽使用の理由については,副長からの聞き取りのみである。その内容は,貯塔は床面から10cmしか離れておらず不便であったこと,作業を早く終わらせたかったことなどである。認可申請書の「設計および工事の方法」を見ると,貯塔の底面は床面から40cmのようであり,沈殿槽を利用するために事前の洗浄が行なわれたことを考えると,作業時間の短縮になったかどうか疑問がある。
 過去の製造手順にも確認されていないことがある。事故調査委員会報告書では,常陽第6次製造までは「クロスブレンディング」で均一化していたことになっているが,第6次と第7次製造の間に検討されたJCO内の安全委員会資料では,均一化に貯塔を使って攪拌混合されていたと記載されている。事故調査では,まだ過去の作業について明らかにしていない事実があると考えられる。

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第4章 原子力安全行政の破綻と安全行政の独立のために
 この章では,主として原子力施設の安全審査などに関する問題について述べている。
 原子力安全委員会によるこの施設の設置許可申請に係わる審査内容を十分に検証できる資料が公表されていない上に,事故調査の過程でも審査の実態に関する調査をおこなっていない。
 転換試験棟に係わる審査では,よりどころとすべき濃縮ウランの加工施設に関する指針を策定してから安全審査をおこなうべきであった。
 臨界事故が発生した最大の原因は,この施設において根本的な臨界対策である「形状寸法管理」が怠られていたためである。安全審査では,「臨界事故は起こりえない」と断定し,臨界が起こった場合にそれを停止させるための設備の設置を要求しなかった。また,国の安全審査や監督官庁は,JCOで違法な作業手順による作業が,長年にわたっておこなわれていたことを見抜くことができなかった。
 原子力を推進する機関の中に置かれた安全規制機関の手によっては問題点に踏み込んだ厳しい安全審査や運転状況の監督は期待できない。推進と規制の分離独立が強く求められる所以である。

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第5章 核燃料サイクル開発機構(旧動燃)の責任について
 この章では,旧動燃の責任がきわめて重いことが論じられている。
 事故調査委員会の報告書では,発注者である旧動燃の責任について取り上げられていない。委員会の審議の過程でもほとんど議論されていない。このことは,委員の中に旧動燃の者が2名入っていることと関係があるのではないか。
 沈殿槽への投入をはじめ,過去のクロスブレンディングや貯塔の使用というJCOの許認可逸脱操業の中心的部分は,発注者である旧動燃が1バッチという取扱量(ウラン重量,2.4kg)を超えて1ロット単位(ウラン重量,14〜16kg)での均一化処理を要求したことに対応するためのものである。本来の施設の能力を超えた発注が事故の要因になっているというべきである。
 ウランの溶解から沈殿までの各工程はウラン濃度が最大でも100g/リットルである。施設の設計はこの量を前提として二重以上の装荷を防ぐようになっている。しかし,再溶解では380g/リットルの高い濃度を旧動燃は要求している。これでは,容量上二重装荷を防止することはできない。この点でも旧動燃が転換試験棟の施設の設計で想定されていない高濃度のウラン溶液を求めたことが臨界事故を引き起こす要因となったというべきである。

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第6章 事故に係わる防災上の対応について
 この章では,原子力事故の際の防災上の問題点について述べられている。
 放射線被曝による被害を防ぐには,住民の迅速な避難が重要であるが,今回の事故では緊急避難の措置が取られなかった。避難指示が遅れたのは,現行の原子力防災計画が国や県の指導助言を前提としているからである。国の緊急技術助言組織が迅速に機能しなかった点も含めて,事故調査委員会ではこの点の検討はおこなわれていない。
 防災指針で定められた高すぎる避難基準に達しないために,避難「勧告」が発動できず,避難「要請」が遅れる原因の1つとなった。これは原子力安全委員会の責任である。
 科学技術庁は436名の被曝者数を公表したが,この中に避難の際の業務に従事した東海村職員や交通規制にあたった警察官などは含まれていない。
 原子力災害対策特別措置法が1999年12月に成立し,そのなかでオフサイトセンター構想が出されている。事故時に関係者が集合して指揮をとる計画であるが,むしろ常設の機関として整備すべきである。

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第7章 東海村民と那珂町民の被害・不満・不安
                ―住民生活影響調査から―
 この章では,今年2月に実施された「自記式留置法」による調査とその分析結果について述べられている。
 地元市民グループおよび学生有志の協力を得て,事故現場から2kmの範囲を5ブロックに分けて住民の意識調査をおこななった。調査数は946世帯であった。得られた主な調査結果は,事前の予想以上に体のだるさや皮膚のかゆみなど事故当日や直後の身体の異常を訴える声が多く,かつ不安感や事故現場への恐怖感などの精神的症状を訴えるものが多いこと,自分や家族への将来の放射線の影響に対する不安感が強いこと,約8割の住民が科学技術庁の責任が大きいと厳しく評価している一方で,村上村長ら,東海村当局への対応への評価は高いこと,3分の2の住民は,原子力発電に関して批判的な意識をもつようになったこと,しかし同時に,東海村の今後の地域像については,「原子力との共存」をあげるものが40%にのぼっていることなどである。

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第8章 原子力産業の現状とJCO臨界事故
 この章では,今回の臨界事故と日本の原子力産業の置かれている状況との関わりについて述べている。
 1995年から98年までに,JCOの再転換事業の年間生産高は25%減となり,価格競争による値下げ圧力も加わって売上高は半減した。そこで大幅なリストラがおこななわれ,1人あたりの仕事量は2倍近くに増えた。原子力産業についてはできるだけ国産化するという国策によって,かつては環境として恵まれていた。しかしながら電気事業者は電源間の競争力を高めるために,国内のみならず国際市場を通じて安価な資材,サービスの調達へと転換してきている。このような状況が事故の背景にある。
 高速増殖炉の原型炉である「もんじゅ」のナトリウム漏えい火災事故により実証炉以降の計画は白紙となっている。常陽の燃料をつくることに労働者の誇りは持ちようがない。モラルハザードはホンネとタテマエの乖離の中に起きた。
 今回の事故は,「将来に夢が持てない」原子力利用が必然的に引き起こした事故である。将来の世代への「負の遺産」を少しでも小さくする仕事に携わる人が尊重されるような世の中をつくる方策を考えたい。

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第9章 JCO臨界事故における損害賠償
 この章では,原子力事故の際の損害賠償の規模の大きさなどについて述べている。
 この事故に対する現時点での損害賠償の合意金額は,139億円に達している。今回は,JCOの親会社である住友金属鉱山が,100%子会社であるJCOに代わって責任をとり,全面的に支払に応じている。しかしながら,彼らの対応を見ると,ともかく賠償問題を早く終わらせようとする傾向が見られ,賠償金額を低額に押さえようとする傾向も見られる。
 わずか1mgのウランの核分裂で,このように巨額の損害賠償義務が発生している。原子力発電所や再処理工場での過酷事故が起きたときには,10倍から100倍以上の損害賠償責務を惹起する恐れがある。これらの事故に完全に対応する保険などありえない。

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第10章 JCO事故とその対応に見る原子力開発体制の問題点
 この章では,日本の原子力開発に関する問題点について述べている。
 軽水炉については,輸入に続く国産化という方針が取られた。それに対して,高速増殖炉の開発は国内での本格的な開発によらねばならない。その開発能力が旧動燃には備わっていないことが問題の核心であり,それを備えることは非常に難しいであろう。
 原子爆弾の開発と製造にあたった「マンハッタン計画」においても研究者間の議論は活発であり,各人の創意が生かされる体制ができていたと考えられる。当初から多くの困難が予測された増殖炉開発においては,自由な研究の雰囲気を保つことが重要である。今回の事故の原因をJCOの違法な作業に矮小化した事故調査委員会の態度は無責任であり,適切を欠いたものではないだろうか。

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政府への提言

1. 臨界事故の再調査を民間の第三者機関によっておこなうこと
 政府による事故調査は不十分であった。事故の重大性を考えて,より完全な調査ををおこなわねばならない。そのためには,企業秘密の壁などを越えることができる権限をもつ第三者機関によって進められる必要がある。

2. 放射線被曝者に対する心身のケアについて
             十分な配慮をすること
 住民の放射線被曝による健康に対する不安は根強い。確固たる根拠もないのに「安全」を強調することは,むしろ住民の健康を損ねる。長期的な健康診断と心理的なカウンセリングが必要であり,その際に要する経費は国が負担すべきである。

3. 原子力施設の安全審査の体制を全面的に見直すこと
 原子力安全委員会はほとんど権限をもたない委員会である。その改革にはさまざまな方法が考えられるが,もっとも重要なことは原子力推進と安全審査の完全な分離である。現在の体制の小さな手直しでは事態はまったく改善されない。

4. 放射線に関わる教育訓練を強化すること 
 放射線の安全に関する教育訓練については法的な規定があるが,時間数,内容ともに不足である。「放射線の安全」よりも「放射線の危険性」を重視した教育が必要である。事故を防止するには,すべての関係者が放射線の危険性を絶えず意識していなければならない。

5. 事故の際の防災体制を抜本的に見直すこと
 事故通報のみに頼らず初動対応を効果的に行うために,常設の機関を整備して平常から原子力施設を監視するシステムを確立する必要がある。特に重要なことは,事故時に情報が一元的に統制されないことであり,原子力諸機関と人員を平常から整備しておくべきである。

6. 核燃料物質の計量管理を厳格におこなうこと
 今回の事故では,濃縮度の高いウランの数量などの管理体制が不適当である可能性が明らかになった。たとえば,臨界を起こした沈殿槽の中に入っていた濃縮ウランの重量についてさえ正確な値が公表されず,転換試験棟の中に存在する核燃料の量も明らかではない。計量管理が十分に行われていない例は他にも多いと考えられる。

7. 日本の原子力の現状について徹底的な見直しをすること
 日本の原子力行政では,重要な課題が先送りされていることが多い。核燃料サイクル,高速増殖炉の開発,高レベル放射性廃棄物の処分(保管)と枚挙に暇がない。今回事故を起こしたJCOが青森県六ヶ所村にある「日本原燃株式会社」のウラン濃縮工場から運ばれた六フッ化ウランを再転換していたことを考えても,今回の事故と日本の核燃料サイクルは関係が深いことがわかる。

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