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調査の結果と提言の概要
1 価格と環境
われわれの調査の結果はこの報告書の、とりわけ日本のエネルギー政策に対する「提言」にまとめたとおりである。新しいエネルギー政策のキーワードは「価格」と「環境」である。すなわち、できる限り安い価格で、環境問題、とりわけ地球環境問題の解決に適合したエネルギー政策が必要とされているのである。日本のエネルギー政策の最大の特徴は「価格」と「環境」以上に、「供給の安定性」に最大の重点を置き、いまだに右肩上がりのエネルギー需要の伸びを前提として組み立てられていることである。「供給の安定性」が重要な要素であることは疑いがないが、価格と環境に重点を移したエネルギー政策の立案が必要である。
2 「エネルギー政策基本法」の制定を
わが国のエネルギー政策は、総合エネルギー調査会という通産大臣の諮問機関で審議され、閣議決定の形で決定されている。国民の代表である国会の場での審議を経ることなく、決定されているのである。
エネルギー政策決定を総合エネルギー調査会のような通産大臣の諮問機関で行うのではなく、国会での討議を基本に、エネルギー政策の基本法としての「エネルギー政策基本法」の制定とそれを中心とした個別エネルギー政策を具体化したエネルギー関連法の整備などを通じて決定手続を透明化することがまず必要である。
3 エネルギーの需要拡大の前提を見直す
今回、われわれが調査したドイツでは、連邦のエネルギー計画において、エネルギー需要は横這いの状態が続くことを、デンマークではエネルギー需要を削減していくことを、それぞれ前提としている。
エネルギー政策をめぐる国民的な議論の中では、地球温暖化の対策、化石資源の有限性、エネルギー消費の南北格差などあらゆる面から見て、わが国の今後のエネルギー需要の伸びを前提とする政策は真剣に見直されるべきである。
4 省エネルギーとDSMの導入、 「エネルギー消費削減法」の立法化
もう一つの新しいエネルギー源はエネルギーの効率化である。火力発電や原子力発電では、発生したエネルギーのうち、利用可能なのは3〜4割に限定されている。しかし、コージェネレーションシステムを利用すれば、発生エネルギーの七割以上まで利用できる。このことは、エネルギー資源を半分に節約できるということである。
また、DSM(Demand-Side Management 需要サイド管理)の考え方を導入し、省エネルギー型の電気機器の購入に補助金をかけたり、省エネルギー技術に助成を行う。また、1日を通じての電気の使用量の平準化を図るために時間帯毎の電力料金にいくつかの段階を設けるなどの料金システムも必要である。
このような社会制度の整備のため「エネルギー政策基本法」の理念を具体化した個別法としての「エネルギー消費削減法」の立法化を提言する。
省エネルギーと持続可能な社会への転換のためには税制、課徴金、有害物質・環境負荷物質の排出権の取引などの経済的な手法を導入することも有効だろう。OECDの1997年春の規制緩和に関する勧告では、環境保護を強める税制の変更が勧告されている。
5 再生可能エネルギーへの 公的な助成と買取り義務の法定、炭素税の導入
再生可能エネルギーについては、導入時のコストがある程度下がる時点まで、十分な公的助成や炭素税の導入などの税制上の優遇措置を行うことが必要である。
日本は、ドイツ、デンマーク以上に再生可能エネルギーの自然条件には恵まれている。今後まだまだコストの高いと言われるソーラーチップの量産化等も必要であるが、コスト的に最も有利な風力発電を強力にバックアップする必要がある。
そして、独立電気事業者による発電電力を電力市場価格に近い金額で買い取るという制度を法律の形態で確立する必要がある。
6 電気事業の規制緩和の推進
電気事業の規制緩和は電力コストの低減を求める産業界の声をバックとして進められている。
現在カリフォルニア州では、1998年4月、電力市場を自由化する計画が実施に移された。まず、既存の電力会社は、発電会社、送電会社、配電会社に分割される。そして、「電力取引所(Power
Exchange PX)」という電力市場が設立されるのである。
わが国においても高い電気料金に対する産業界の批判をバックに電気事業に対する規制緩和を進め、電力会社以外の発電事業参入に対する規制を緩和する必要がある。カリフォルニアで実施されたような完全自由化は、独立電気事業が未成熟な日本ではまだ先のことであるが、コストの透明化と競争条件を公平なものとするため、発電部門と配電部門の分離は比較的早い時期に実施する必要がある。電気通信事業で生じたような、本格的な価格競争がこのような規制緩和によって加速されることになるであろう。
電気事業の規制緩和はアメリカのカリフォルニア、イギリス、ノルウェーなどでも実施され、OECDの1997年5月の規制緩和勧告でも、発電部門と送電部門の分離を含む規制緩和案が勧告されている。また1997年1月には、佐藤信二通産大臣が電力会社の発電部門と送電部門の分離を提唱して注目を集めた。
しかし、規制緩和によるエネルギー価格の低下はエネルギーの消費を拡大させる可能性もあり、地球温暖化防止の観点からは、炭素税の導入と、エネルギーの消費削減に成功した事業者、消費者にはこれを還付するような経済的な手法が同時に必要である。
7 プルトニウム利用の即時停止と 原子力発電への公的助成の中止
わが国のエネルギー政策が、いまだに原子力に莫大な予算を投じ、プルトニウム利用と核融合に見果てぬ夢を託していることは、欧米の議論の実情から見たとき、極めて異常な状態になっていると言わざるを得ない。すでに原子力に相当な投資を行ったアメリカ、ドイツでは、高速増殖炉と再処理が完全に否定されている。いま、アメリカ、ドイツでの原子力をめぐる議論の中心は、使用済燃料の地層処分の方法と既存の原発をいつ閉鎖するかに絞られつつある。
日本では、いまだに、地球温暖化のための切り札は原子力発電であるなどという特殊な論理で、原子力の推進が正当化されている。そして、日本の原子力偏重のエネルギー政策は、国が莫大な予算を投じて世論誘導を行う中で、エネルギー問題について十分な情報を公開した上での冷静で客観的な議論の機会を奪い、再生可能エネルギーやエネルギー効率の向上などに向けられるべき予算を「もんじゅ」や六ヶ所村再処理工場などの国家プロジェクトのために浪費させ、企業の新しいエネルギー関連技術開発の意欲を削いできた。
当連合会は、プルトニウム利用の路線はとらず、世界中から核軍備を疑われるだけの再処理・高速増殖炉は即時に停止することを提案する。ドイツのように、原子力発電に対する公的な助成策を廃止し、国は中立の政策をとるべきである。日本で原子力産業が生じて30年以上が経過し、なおもこの産業に国家的支援を行う政策は経済的に正当化できない。
8 エネルギー政策を市民の手に
ここに述べたような政策は、世界の動向からも極めて常識的なものであるし、また強まる国際競争の中に置かれる日本の産業界にとっても避けて通れないものである。
今、何より必要なことはわれわれの毎日の生活に必要なエネルギーを政府や電力会社任せにしないという意識改革である。どんどん意欲を持った民間企業が市場に参入していけるよう、電力事業の規制緩和を進める必要がある。また、エネルギーの効率化や、新しいエネルギー源の開発などの多様な分野で、エネルギー問題を地方自治体のレベルで取り組むことも有効だろう。そして、何よりも大切なことは、エネルギー問題が、市民の創意と工夫で解決していくことができる問題なのだという具合に、市民の意識を改革していくことである。


なぜ当連合会がエネルギー問題の提言を行うのか
当連合会は法律家の団体であり、基本的人権の擁護を目的としている。当連合会が公害の防止や環境の保護のために提言を行う意義は誰しも異論がないと思われるが、エネルギー政策について、提言を行う根拠をここに示しておくこととしたい。
ひとたび、原子力施設が大規模な事故を引き起こした場合、その環境に及ぼす影響が極めて甚大で、多くの住民、未来の子孫に至るまでその生存が脅かされることは、1979年アメリカで発生したスリーマイル島原発事故、1986年旧ソ連で発生したチェルノブイリ原発事故や、イギリス、フランスの再処理工場周辺での白血病の増加などの事実によって裏付けられている。このような原子力災害の悲劇を未然に防止することが、人権を擁護する弁護士の職責であることは疑いのないところである。また、原子力発電によって生み出されるプルトニウムと放射性廃棄物、とりわけ高レベル放射性廃棄物の管理・処分に関する問題は、最も深刻な環境問題の一つと言っていい。これらの危険物質は極めて長期間にわたって、人間環境から厳格に隔離されなければならない。しかし、その処分技術はいまだ確立されていない。
また、近時エネルギー問題は環境問題そのものと考えられるようになってきているということを指摘する必要がある。地球温暖化がもう一つの最も深刻な環境問題であることも異論のないところであろう。地球温暖化は今や仮説ではなく、気候データや極地の氷河の後退などによって実証され得る問題となってきた。地球温暖化は温室効果ガスの排出によってもたらされるが、温室効果ガスの大きな部分をエネルギー生産の過程において化石燃料の燃焼によって産み出される二酸化炭素が占めている。そして、今日の最も重大な環境問題の一つであると考えられている地球温暖化防止の問題は、まさに、各国のエネルギー政策を通じてしか、克服できない問題となっている。
また、原子力発電やプルトニウム利用の危険性を指摘する際に、必ずと言っていいほど「それでは替わりのエネルギーをどうするのか」という問いが発せられてきた。原子力発電の危険性や環境問題の視点から、政府の計画に異論を唱えるだけでなく、これに対する代替案を提示することが必要になってきたのである。
同じことは、当連合会が環境問題の観点からその問題点を指摘してきた、大規模河川開発、ダム建設の問題にも当てはまる。ダムによる発電の代替案を示す必要があるのである。
以上の諸事実を踏まえれば、エネルギー政策について当連合会が提言をすることは、公害の予防排除、環境保全等に関する調査研究をし、それに基づいて具体的方策の立案、意見の発表等を行うことを基本的任務の一つとする当連合会の立場に沿うものである。
以下に詳細に検討するように、わが国のエネルギー政策は欧米の新しいエネルギー政策から大幅に後れをとっている。そして、その問題点の大部分は、この報告書で詳細に分析したように、技術的課題と言うより、社会システムの不備・法制度の不備に起因するものである。例えば、日本で欧米諸国に比べて再生可能エネルギーの導入が遅れている理由は、日本企業が技術的な開発を怠っているためではない。むしろ、日本には世界的に有力な風力発電機、太陽光パネルの生産メーカーが存在している。しかし、電力会社に再生可能エネルギーの適正価格での買取りを義務付ける法律がないことや、電気事業法などが定める発電設備を設置する際の過剰な保安規制などが障害となっているのである。
本報告書は、基本的人権の擁護と環境の保護のために活動してきた当連合会のエネルギー政策に対する提言を法律家としての立場からまとめたものである。この報告書が、国・地方公共団体の行政・政策立案にあたる立場の方々、立法府においてエネルギー・環境に関する立法作業にあたる方々、エネルギー問題と地球温暖化問題などに関心を持つNGOや報道機関に所属する方々、さらには一般市民がこの問題について考える際に、参考とされるよう心から期待する。
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